例えば、誰もが知っているベートーヴェンの「運命」。
この曲の演奏時間は、指揮者によって、およそ11分の違いが出るという…。
そこまで…?
今日の「チコちゃんに叱られる!」は、放送100回記念の拡大版だ。
何で指揮者は手を振るの?
チコちゃんに「この中(岡村隆史、ゲストの笑福亭鶴瓶と天海祐希)で、一番クラシックを聴いていそうな素敵な大人ってだあれ?」と聞かれた岡村は天海を指名した。
「指揮者ってさ、どんな動きをするかやってみてくれる?」言われ、天海は指揮者の真似をする。
そこでチコちゃんが「それ何してるの?何で指揮者は手を振るの?」と聞く。
天海は「指揮をするから…指揮者によってその曲が変わる(基本のものが一緒でも)。その曲をそのメンバーと共にデザインしてきちんと演奏するため」と答えるが…チコちゃんは「確かにそうなんだけど…言わせてもらうわ…ボーっと生きてんじゃねーよ!」という。
〇チコちゃんの答え
⇒指揮者が手を振るのは、一瞬先の未来を演じているから
私たちは指揮者の頭の中で鳴った音楽を聴いている
詳しく教えてくれるのは、音楽史研究の第一人者、国際基督教大学金澤正剛名誉教授。
番組のディレクターが「失礼な話かもしれないが、指揮者って必要なんですか?」と聞く。
先生は「いや必要なんですよね。指揮者が楽譜を見てどんな曲か頭の中に浮かべる。それを演奏者に演奏してもらうために手や身振りで自分の解釈を(演奏家に)伝えるわけです」という。
つまり、私たちは指揮者の頭の中で鳴った音楽を聴いているというのだ。。
さらに「手の動きに決まりはあるのですか?」と聞くと「特にありません、ですからその人が考えた通りでいい」という。
なんと、手の動きにはこれと言った決まりやルールはなく人によってバラバラなのだそうだ。
指揮者によってどれほど違うのか?
指揮者によってどれほど違うのかというと…
ヘルベルト・フォン・カラヤン
20世紀を代表する指揮者で楽壇の帝王と呼ばれたヘルベルト・フォン・カラヤン(オーストリア出身、1908‐1989)
力強く上品な曲に仕上げる。(その指揮がこちら…と動画が流れる)。
特徴は何といっても力強く切れのある手の振り方。堂々たる指揮ぶりはまさに帝王そのもの。
カール・ベーム
一方、楽譜に忠実でち密な指揮で有名な巨匠カール・ベーム(オーストリア出身、1894‐1981)は、必要最小限しか手を振らない省エネスタイル。
わずかな動きで表情豊かな楽曲に仕上げる指揮はおみごと。
山田一雄
日本のクラシック界を支えてきた指揮者の一人である山田一雄(1912‐1991)。
興奮すると飛び跳ねてしまうほど激しく情熱的な指揮で知られる山田さんですが、静かに演奏させるときは…その手は口元に…まるで物語を演じる役者のように手を動かす。
さらには…
踊るように指揮するトゥガン・ソヒエフ(ロシア出身)もいれば、左右の手をせわしなく動かす指揮者ズデニェク・コシュラ―(チェコ出身:1928‐1995)も。
先生は「曲そのものは変わらないんだけども微妙な表現ですね、それが指揮者によってずいぶん変わってくると…」という。
表現の仕方によって曲の方向性を大きく変えてしまうほど重要な役割を持つ指揮者だが…
昔は指揮者がいなかった
「実はですね、昔はね、指揮者いなかったんですよね。作曲家自身が合奏をまとめていたので…」と先生。
実は指揮者が誕生したのは18世紀の終わりから19世紀の初め頃。
それ以前は作曲家自身が演奏しながら周囲に指示を出し、自分のイメージ通りの音楽を演奏していた。
しかし、作曲家がいつまでも生きているわけではない。
その結果…
指揮者誕生
先生によれば「過去の作曲家の作品を演奏することが多くなった。作曲家自身もういませんから、作曲家に代わってその曲を再現する人が必要になる。それが指揮者である」という。
その存在が広く知られるきっかけとなった曲が、バッハ(1685‐1750)の「マタイ受難曲」。
実はこの曲は…あの「結婚行進曲」の作曲家として知られるメンデルスゾーン(1809‐1847)がバッハの死後に世に広めた曲だった。
バッハの時代は、曲を後に残すという事はあまり考えなかった。
演奏のための楽譜を書く。
演奏が終わったら、ちょっとどっかの棚に置いておきそのままになってしまう。
メンデルスゾーンはこうして眠っていた「マタイ受難曲」の楽譜を発見。
その楽譜を猛勉強し、自分が指揮者となって1829年、演奏会を行い曲を見事に復活させ世に広く知らしめた。
作曲家が残した楽譜を発掘し演奏してきた指揮者がいたからこそ、私たちは今、何百年も昔の曲をこうして聞くことができている。
同じ曲でも指揮者が違うと別の曲になる?
楽譜から音楽を再現し、伝えるために生まれた指揮者だが…
同じ曲でも指揮者が違うと全く別の曲になる、という。
誰もが知っているベートーヴェン(1770‐1827)の交響曲第5番ハ長調作品67「運命」で比較してみると…
・日本クラシック界のレジェンド、朝比奈隆(1908‐2001)さんの運命は、深みのあるゆったりとした「運命」。
演奏時間は41分34秒。
一方
・スピード感ジャナンドレア・ノセダ(:イタリア出身)の「運命」は…
式台に上がった瞬間から息つく暇がないほどの超高速。
演奏時間は30分29秒。
※いずれも動画を見せてくれた。
同じ曲なのにおよそ11分もの違いがあった。
曲をどのように解釈するかによって(テンポ・強弱・表情がこんなにも)大きく変わる、という。
先振り
指揮者は「あること」に注意して手を振っている、という。
先生は「指揮者がサインを出すでしょ。それを見て演奏者が音を出す。見てから出すからちょうどその間に微妙な差が出るんですね」という。
(※ここでもう一度、動画が流れる)
朝比奈さんの「運命」を指揮者の手の動きと演奏のずれに注目して見ると…
指揮者が先に手を振って、少し後に演奏が始まっている。
これは一瞬早く手を動かす「先振り」という技術。
楽器を演奏する人たちは指揮者の合図を目で見てから演奏を始めるため、ずれが生じてしまう。
しかし、先振りで一瞬早めに手を振ることで理想のタイミングで演奏させることができる。
指揮者は常に一瞬先を見据えながら手を振っていた。
「指揮者って大変ですね」とスタッフがいうと、先生は「あんまり大変じゃないと思うよ。指揮者は自分で勝手にやってんだよ」と笑顔で答えた。
※8月22日「チコちゃんに叱られる!」参考・参照
まとめ
指揮にルールはない、のは驚いた。
が、考えてみれば、そのおかげで指揮者は演奏者を操り、曲に個性を出すことができるわけだ。
聴衆をより感動させることもでき、それが名指揮者として名を上げることにもなる。
…もちろん、私には無理だが。