「カクテルグラスにさよなら」レビュー
とうとう脚本が原作を超えた!?
つまり、プロットは同じだが、視点を180度変えたり、原作では明かされなかった部分を描いたり…
今回のドラマは、原作より面白いストーリーに仕上がっているのだ。
そういった意味で脚本が原作を超えたと言っても良いかもしれない。
「カクテルグラスにさよなら」のあらすじ…
男性が女性にプロポーズするのだが、結局結ばれないで別れてしまう…というもの。
原作は、男性が女性に振られたかのようなイメージがあるのだが…
しかし、ドラマは「女性が止むを得ない事情」で男性に振られた設定になっている。
ここが、視点が180度違うといった意味だ。
これによって原作とドラマで、微妙にニュアンスの違う場面が幾度と無く出てくる。
分かりやすく、原作とドラマを並列でみてみよう。
オープニングの場面
松ちゃんとメガネさん(原作ではメガネさんは登場しないのだが、今回も何故か座っている)、それと何か訳ありのようなカップルの4人がカウンターに腰掛けている。
カップルの名前は「佐野さん」とその彼女「松坂ミドリさん」
ここでの酒役は「ミドリアレキサンダー」。
このカクテルが出来あがった経緯が原作とドラマは違っていた。
原作
・佐野さんが彼女をマスターに紹介した時に、マスターが「気に入ったらカクテルをプレゼントしましょう」と言って作ったカクテル。
ドラマ
・佐野さんと彼女が結婚するということでマスターが「お祝いは何を?」と聞いた時に佐野さんが「じゃぁ、彼女にピッタリのカクテルを作って下さい」と言われて作ったカクテル。
「マスターが自ら作った」と「佐野さんに頼まれて作った」という部分が真逆だ。
また、ドラマ後半で、マスターがカクテルグラスにわざとヒビを入れる場面がある。
そして佐野さんがそのグラスでカクテルを作って欲しいと頼む。
注がれたカクテルの雫が、グラスのヒビの部分から溢れ落ちる。
その時の佐野さんのセリフ…
原作
・「マスター見て…ボクのかわりに涙流してる…」
ドラマ
・「ミドリが…泣いてる」
じつはその少し前、ミドリさんが「このグラスを私だと思ってミドリアレキサンダーを飲んで下さい」と佐野さんに伝えて欲しいと言っていたのだ。
つまり、グラス=ミドリさんと解釈が出来る。
原作では
佐野さんが振られた側なので、グラスに向かって「ボクのかわりに涙流してる」と言った。
ドラマでは
ミドリさんが振られたほうなので「ミドリが泣いている」となる。
…なるほど!
極めつけはこれ。「二人が結ばれなかった理由。」
実は、原作では、その理由を明かしていない。
が、ドラマでは、佐野さんが「子供に結婚を反対されたから」とはっきり言っている。
ここが原作では明かされなかった部分。
この理由があって始めて冒頭のシーンが理解できる。
冒頭の二人の会話
「そうですか」
「すまない」
「いいえ…」
「でも信じて欲しい、ボクは変わらず君のことを…」
そしてラストシーンで佐野さんが「まだ間に合うかもしれない・・・すいません」と言って店を飛び出していく場面が、より生きてくる。
ドラマではこのラストの佐野さんの様子から「ハッピーエンド」の予感がする。
一方、原作は、「二人が別れて終わり」の感じが強いので、この部分はもちろん、無い。
まとめ
ウィスキーに例えると、「とてもフィニッシュ(余韻)が長くて味わい深い」作品とでもいえようか。
今回は、かなりいい意味でショックだった。
原作ありき、ゆえにこういうのが脚本家の腕の見せ所だ。